【たかが難聴、されど難聴】3)難聴は勝手です。

3) 難聴は勝手です。頼まれもしないのに家族のあり方を変えてしまいます。

我が子の耳が聞こえない!という宣託を受けて、HOW? と WHY? に翻弄されまだ動き出せていないかもしれないご両親に、あえて言います。

これからは、これまでとは違います。思い描いていた「これから」とも違います。「ふつう」は当たり前に与えられるものではなく、努力して手に入れるもの、努力して手に入れる価値のあるものになります。

家族に新しいメンバーが生まれただけで、家族の重心は変わるもの。おむつ替えや授乳が生活の中心を占め、昼と夜はひっくり返り、寝入った子の笑顔にすべての疲れを忘れる...。やがてパパママ役が板に付き、生活のリズムも出てきて、あれができるようになった、これができるようになったと言っている間にもう新しい家族のあり方ができ始めている...。

でも、難聴(に限らず、障害や疾病)をもっているお子さんの場合、夫婦の共通理解や目標の設定と共有、ロードマップの作成や役割分担について、たくさんの時間が必要になると思います。それは終わりということはなくて、成長につれ何度も確認し、軌道修正し、関わる専門家も入れ替わっていったり、ある時は大きな決断を迫ったりもするのです。

つまり、子育て中、ずっと、続く、家族の「あり方」の模索。

いい施設を見つけて、お任せ、はいありがとう、ということには絶対にならない。
だから覚悟を決めて、頼める助けは頼む、使える権利は使う、でも最終的には親が責任を全うするという大方針を、夫婦間で確認してほしい。

何を大げさな...!りっぱな学校があるじゃないか。難聴学級だってあるじゃないか。世の中インクルージョン教育が謳われ、障害者差別解消法が批准となり、手話条例を出す自治体も増えているじゃないか...! そう思われた方、間違ってはいないのですが、残念ながらポイントがずれているのでございますよ。だって、義務教育があまねく行われ、家庭科が男女必修となり、男女共同参画が謳われているからと言って、家庭で躾(しつけ)が不要になるわけじゃないでしょう? それと同じこと。

難聴児を育てる家庭の責任がとても大きいことは、ふつう、聞こえる子は家庭でことばの基礎を培うという、当たり前のことから明らかです。家庭で耳から聞き覚えて話せるようになることばを母語といい、母語の聞き分けはお腹の中にいる時から始まり、1歳前後で初語が出る。入園する頃にはけっこうおしゃまなことも言うし、小学校低学年で基本的な構文を習得している。聞こえない、あるいは聞こえにくい子の場合、何もしなければ耳からことばを聞き覚えるのが難しいため、母語の発達、ひいては認知能力の発達に支障をきたす。つまり、入園前の0歳から3歳という時期に家庭でどう育つかがその後を大きく左右するわけです。

繰り返します。鍵は0歳から3歳。スタートは0歳です。

英語教育はいつまでに始めるのがいいか、というのは第二言語習得の話なので、今の話とはまーったく関係ありません。もっとも、母語(第一言語ともいいます)が育っていなければ第二言語も当然育たないので、マイナス方向では呼応しますが。

難聴児を育てる家庭の責任について、もう一歩、踏み込んだことを書きます。

ポンと産み落とされて自分が何者なのか、どこにいるのか、何にもわからないし、まだ目も開いていない赤ちゃんにとって、周囲の音、特に胎内で慣れ親しんだ母親の心臓音や声は何にも代えがたい安心の源。それだけではなく、赤ちゃんの脳はとても繊細なアンテナを立てていて、聞こえてくる声や音のつながり/切れ目/その瞬間を特徴付ける周りの状況などを詳細に分析して、母語の習得に余念がないということも、最近の研究で明らかになってきました。つまり、母親が赤ちゃんにあれこれと話しかけながら世話をする、あるいは寝かしつける時に子守り歌を歌う、というのはとても理にかなったことで、世界中の母親は心理学がそれを証明するずーっと前から母性という知性でそれを知っていたのですね。

ところが聞こえない赤ちゃんにはその安心の拠り所がない! これでは心と知性の低栄養になってしまう。聞こえない/聞こえにくいことに気づかないこと、気づいたのに何も有効な手立てを打ってあげないこと(ショックのあまり、ということもあるでしょうが)、それはまさに育児放棄、ニグレクトにも等しい緊急事態!

難聴児を育てる家庭の責任の重さ、うっすらと思い描いていただけたでしょうか。

聞こえる赤ちゃんであれば何となく「ふつうに」家族をやっていれば何となくふつうに育っていた「ことば」というものが、難聴児の場合には意識的に取り組まなければならない課題となる。その意味において、家族のあり方を変えてしまう「難聴」... これから長いおつきあいになります。だからまずは、夫婦で、家族で、協力体制を確認。長期戦であることを確認。親が主役となって育てることを確認。してください。必ず。

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